
ふたたび 如月のこと
1日 あっという間に1月が雲の彼方に飛んで行ってしまった。
手ぐすね引いて待っていたような、2月の到来だけれど、この中途半端な月もきっと、気がついたら姿をくらましているような気がする。
だから毎日を大切に、と思うのは気持だけ。
寒さに負けて、起きぬけからだらだらと過ごしてしまった。
今日は昨日からの悪天候が尾を引いて、時折とてつもない大風が突き抜けていく。
一旦満開になった盆栽の白梅が、咲いてしまってよかったのかしら、と戸惑っているように見える。
夜になって7時に娘の家に行き、お寿司を御馳走になる。これは、3日遅れの旦那の誕生日のお祝い。人の家でご飯を食べるのっていいな。二人で向かい合って食べていると、少ししか箸をつけない旦那が、1人前の握りずしを完食。退院して7週目に入ったけれど、1回も熱をださないのは、今回が初めて。
だから皆がとても穏やかな気持ちでいられるのが、とってもいい。
2日 昨日の風が止んで、からりと晴れたけれど、空気がつめたい。先週約束していたとおり、今日は午後にデイホームに行く。
あさってが立春なので、来週から春の歌に入ろうと思っていたけれど、うららかに晴れたので皆の気持ちはもう春。そこで、たっぷりと春の歌を歌うことにした。
今日は豆まきをするというので、5分早く切り上げて、豆を食べておやつまでご馳走になって、遊んで帰ってきた。
帰りに駅前のATMでお金をおろし、取り寄せたお茶の代金を郵便局に振り込んで、3時過ぎに帰宅。今日はもう面倒なので、買い物はしない。
冷蔵庫の中をひっかきまわして、おかずを探し出す。
高野豆腐が好きな旦那は、高野豆腐に鶏もも、玉ねぎ、春菊で卵とじにしてあげたら、充分だった。
今まで経験しなかったことだけれど、昨日から肩の関節が痛い。ある角度で後ろに腕の回らないところがある。
ずっと泳いできて50肩などは無関係だと思っていたのに、私も人並みになったものだわ。
今日2個目の巾着ができた。でもまだ人様に上げられる代物ではない。あと3個ぐらい練習してから、本番に取り掛かるつもり。
3日 昼食後「行ってきます」、というと、旦那がどこに行くの?と聞く。(あれ?言ってあったのに……)「プールよ」ちょっぴりご機嫌斜めだ。だいたい前から人の言うことを聞き流している人なんだ。
すこし出にくくなったけれど、えいやっ!と出てしまった。出てしまえばこっちのもの。
このプールが出来てから6か月になる。最初のうちは処女の如く皆しおらしかったのに、最近になってそれぞれの個性が出てきて、見ていると面白い。
やたらと世話好きな人、どことなくボス的な匂いが漂う人、誰とも没交渉でひたすらマイペースな人、周りを見回しながら、それでいて人間関係に対して、能動的に動かない人と、大まかに4つに分けられる。
私はどうやら4番目。だから水着の洗い場で、<水が掛かった、つめたい>、なんて怒られたり、ポイントを付けるゲーム機は一向にやり方を覚えず、あとから来た人が全部やってくれたりしているのだ。
このところ痛かった肩は、今日の荒療治でおおかた治まったようだ。
帰りに駅ビルで、出来たてホカホカの焼売とグレープフルーツゼリーを2個買って帰った。
湯気の立ったものと、保冷剤の入ったものを一度に買うと、飛んでもないことになる。大荷物になった。
フルーツゼリーはサービス満点で、カップにぎゅうぎゅう詰めなので、旦那と「なんて食べにくい奴!」と文句を言いながらおいし〜く食べた。
4日 今日は80回目のユトリーバ。骨折さんと腸閉塞さん、それにお母様の介護でしばらくお休みだったユキコさんも久々の出席でミエコさんのお誕生日とも重なって、もう大盛況。
今日はまだ階段を登れないレイコさんが見えたので、隣の家というわけにはいかなかった。息子の家は階段に手すりがないのだ。歳とったらどうする気なんだろう。
でも慣れというのはすごい。私もあっという間にテクニックを身につけて、走って降りることだってできるのだ。
アツコさんが内祝いにたくさんのお赤飯を持ってきてくださった。
今日も話題に羽が生えたごとく、とどまるところを知らず。中でも傑作なのが、エイコさんがアメリカに帰るお孫さん一家を成田に送りに行って、向こうに着いてから、色違いの靴を片方ずつ履いているのに気がついたというおはなし。
お嬢さんやお孫さんに写真を撮られて、外人さんたちに見られたというので、皆で、ピースすればよかったわね、と笑いが止まらなかった。
私もかつてスイスのハイキングに行く時、いったん出てから忘れ物を取りに家に入って、せかされたまま慌てて、Gパンにハイヒールで出てしまい、気がついたのが東京駅だったということがある。
その時知ったけれど、成田空港にはスポーツシューズを売っていない(今はあるかもしれないけど…)。
この旅では結局インスブルックまで借りた靴を履いていたけれど、やっと探し当てた町の靴屋さんで買ったジョギングシューズは出来がよくて、もう10年履いていて、まだ現役だ。
ユトリーバでは、夫のことを気遣って下さり、皆様いつもより早くお帰りだった。
今日はアンカフェに行って、一個ずつケーキを箱に入れてもらい、80回記念のお土産にした。
5日 なんとなくどんよりしているけれど、こういう日は気分が安定して過ごしやすい。空とにらめっこしながら、昨日使ったテーブルクロス、トイレの1回ごとに替えるタオル、お絞りなどなど、30枚以上を洗う。
これはお客様のあった翌日の密かな楽しみ。これが多ければ多いほど、私はご機嫌になる。
今日は訪問着の端切れで手縫い仕事をした。絹ものは裁つのが難しいことを知る。
おまけに裏の羽二重のわがままなことったらない。解いてはほどき、を繰り返しているうちに夕方になってしまい、大急ぎで買い物に出た。「とうきゅう」は5日が安売り日で、50円の野菜が目当て。林檎をまとめて買ってくる。
今日は両足が痛いのは何故かしら?
6日 旦那の調子が良いので、今日もお昼を用意しておいてセントラル(正しくは、セントラル ウエルネス クラブ 慶応日吉)に行く。
健康体操のあと、ジムに行ってたっぷりと汗を流した。肥満度を測ったら、0.1オーバーだった。
まあ、0.1ならいいか、といったら、ジムのおにいさんは、「だめです!」ときっぱりという。
午前中は暇なので、指導員たちは退屈しのぎにすぐ寄ってくるのだ。
「いくつですか」「え、歳?」「はい」「ええ、言わなきゃいけないの?」「うそ、体重です」「どっちも言いたくない」とこちらもすっかり遊んでいる。
日吉駅のカフェで、ハルコさん、エイコさんとサンドイッチを食べて、旦那におやつのふわふわケーキを買って帰る。
今日は帰ってからずっと深夜まで、バッグ作りを楽しんだ。だんだん調子が出てきたぞ。
7日 朝8時半に病院の順番を取りに行った。今日も5番目。
旦那の体調が安定しているので、先生のご機嫌がいい。だからこちらもいい気分だ。また再来週お目にかかりに来ます、と言って、迎えにきた息子に旦那を託して、生協に買い物に行く。季節的にもうじき無くなるだろうみかんを、行くたびに買ってきて冷蔵庫に備蓄してあるのは、旦那のため。Sサイズをご所望で、毎日2〜3個ずつ大事に食べている。
明け方の雲がすっかり姿を消して、からりと晴れた。でも気が向かないので洗濯はやめにした。
このところ続いている小さなバッグ作りは、帯1本で7個作れることがわかって、もう4個目に入っている。
この「龍村」の帯は、母が晩年にお友達から頂いたものと記憶しているけれど、あまり締めているのを見たことがない。
和服を愛する人に言ったら叱られてしまいそうだけれど、私もそんなに愛着がないのだ。
だから散々考えた末に、旅の好きだった母にイタリア旅行をさせてあげようと思いたったというわけ。
イタリアからのお客様には、その話をしてプレゼントしようと思っている。貴重な品なので、出来るだけ効率よく裁断しようと思ったら紐の幅がぎりぎり。
色目の合う無地の布を探し出して、紐の部分は2色にしたら、モダンになった。
今夜も寒い。

8日 洗濯ものを干そうと2階のテラスに出たら、桃の花の蕾が色づいていた。思わず
♪ は〜るよこい は〜やくこい ♪ と口をついてでる。
春はもうお隣との塀際までやってきているようだ。
去年の秋に桃の枝を、花芽がついていると思うから切らないで、と植木屋さんに頼んだおかげで、今年の花つきがいい。
この分ではたくさんの方に花のおすそ分けができそうで、嬉しくなる。
リビングの窓際に座っていたら、背中が暑くなるほどの温かさだったので、午後になって旦那を外に連れ出した。
退院して2回目の外出。でも外に出たら北風が強くて、思わず襟を立てた。
「とうきゅう」の4階の文房具売り場で、ノート、防虫剤などを買って、階段わきのベンチで一休み。
一旦彼を家に送り込んで、もう一度別のスーパーに沼津直送の干物を買いに行く。
旦那と歩いていると、ゆっくりなので却って疲れてしまう。だから一人のときは、下り坂を転がるように降りて行って、またエッサエッサと坂を登る。
このところ少しばかり運動不足で、300gぐらいウエイトオーバーなのだ。
バッグをせっせと作って7個になった。でも散らかし放題でリビングのテーブルはものだらけ。
向かい合って旦那は税金の申告のため、医療費の計算に余念がない。ときどき「わっからねえなぁ」とため息まじり。
9日 昨日から医療費の計算に頭を使っていた旦那は、今日微熱をだした。
でも何か言うと反論がきそうなので、何も言わないことにする。
先月まで朝食が終わると、片づけもそこそこにデイホームに行ったのだけれど、今月から午後にしてもらい、これが意外と面倒なのだ。大体今までお昼を食べると眠くなる習慣がついていたので、ふっと行きたくないな、と思ってしまう。
でもエイヤッと出かけて行き、皆の顔を見ると、ああ、来てよかった、と思う繰り返し。
1時半までは皆テレビにくぎ付けなので、番組が終わるまで、退屈そうな人の所に行っておしゃべりをする。
歌が歌いたいから、月曜日は少々具合が悪くても頑張ってくる、という人の話を聞くと、私も休めないな、と思う。
それにしても春の歌って、なんて素敵なのが多いのかしら。空は曇っていたけれど、私の心は晴天。
今日はどうしてもロールケーキが食べたくなって、いつもと違う坂を降りて、近頃評判の塩フロマージュを3個買い、2軒のスーパーを梯子して、美味しいものを買いあさってきた。
娘に1個と思ったけれど、あんまり美味しいので明日のお楽しみにすることにした。
私ってつくづくけちんぼ。
10日 プールに行く日なのだけれど、旦那が昨日からすこし調子が悪い。どうやら今日も微熱がでているらしいので、私の外出は取りやめにする。
ひょっとしておとといの北風が悪かったのかしら?
お昼になってキョウコさんから電話で、私の薬を持ってきて下さるというので、自由が丘で会うことにした。彼女のご主人は、うちの旦那の先輩で目黒の開業医。
彼女のお宅は院内処方なので、調剤薬局よりも安くて助かるけれど、今日はどうしても薬代を受け取って下さらなかった。
「今はうちのほうがお金がたっぷりあるから」、といって、私が誘ったコーヒーまで御馳走して下さるという。
だから有難くご厚意を受けることにして、自由が丘の町を2時間ほど散歩してウインドウショッピングを楽しんだ。
いつもは通り過ぎてしまうお店も、お連れがあるとゆっくりと入る気になる。
今日は気温が少し上がって、軽い上着でちょうどよかった。町に春の気配が忍び寄って、人出が多く賑わっている。
夕方になって、旦那がご飯を食べたくないというので、食べる気になるまでの1時間で、去年から気になっていたお悔やみ状を書いた。
とてもお世話になった方なので、ずっと気になっていたけれど、こちらにも余裕がなくて、通り一遍の儀礼的なお手紙は書きたくないと思っていたので、書きあげてほっとした。でもまだあと3通のお悔やみ状を書かなければならない。
それにつけても思うこと、彼岸の同窓会は賑やかになっただろうな。今日はバッグ作りはおやすみ。
11日 朝リサイクルの空き瓶を出しに外に出たら、細かい雨が降ってきた。
昨日とは打って変わって肌寒い。
こういう日は家に籠るに限る。夜になって今日何したっけ、と考えても思い出さない、何もしない日だった。
夕方になってから、ジュースが切れているのに気がついて、いやいやながら生協に行った。
ジュースだけのつもりが、気がつけば両手いっぱいのものを抱えている。
一旦帰ってから、今夜じゅうに読み終わってしまう本の続きを買いにもう一度本屋に出た。
すこし体調の悪い旦那のために軽い食事を用意したところに、息子がやってきて、テーブルを見回して、粗末な食事だなあ、という。鶏と人参と高野豆腐の献立は、食欲のない時の旦那の定番。
それにしても今夜の味付けは超薄味だった。
食後のサッカー対オーストラリア戦は引き分け。面白かった。
12日 12時半に浅草の雷門でまちこさん、みわこさんと待ち合わせ(旦那が不調だというのにねえ)。
久しぶりのM・M・Kトリオのそろい踏みだ。
今日の目的は、尾張屋の上天丼。でも昼時は混んでいるので、先に観音様にお参りに行く。
観光バス客、修学旅行生、と相変わらずの混雑ぶりだけれど、この賑々しい雰囲気が大好き。
狭い尾張屋のテーブルにあれこれと並べて、プレゼント交換会をする。
今日はお二人から、少し早いバレンタインのチョコレートを夫に頂いた。
真ん中の仲見世は、ごたごたと人が多いけれど、ちょっと横道にそれるとレトロな雰囲気が感じられるのがとてもいい。
“友路有”という昭和レトロなカフェを見つけて、ティータイムに入る。
この店のコーヒーは290円と超安価だけれど、とてもおいしかった。
お店の名前が読めなくて聞いたら、“トモロウ”です、と教えてくれた。
どうしてその名前を付けたのか聞きたかったけれど、なんとなく遠慮する。
このお店はたくさんの古い柱時計がかけてあるけれど、どれも7時10分で止まっていた。お客さんは皆常連らしかった。
帰り道に観光客に混じって雷おこしを買う。雷おこしって、おこしのくせにほろほろとやわらかくて大好きなのだ。
我が家から浅草まで1時間近く掛かるけれど、いつも行きたいところだ。
今日一日で1ケ月分のストレス解消を果たした。よかった、よかった。
帰ったら、このところのパターンになった午後の発熱が今日も来た、と夫が言う。チョコレートをお二人から、と渡したら、とても嬉しそうな顔をしていたので、そう具合は悪くなさそう。でもあさって土曜日に1週間早く病院に行くという。
帰ってこられればいいけれど、とチラッと思う。
13日 13日の金曜日。でもクリスチャンではないから、まったく気にならない。
朝のうち旦那が元気な間にスポーツクラブに行き、健康体操をみっちり45分間やって、そのままジムに行き、大急ぎでウオーキングマシーンで1キロを歩く。
帰りに駅ビルで美味しいものを探そうと思ったのに、気がついたらお財布を持ってくるのを忘れていた。
この頃は“スイカ”でどこまでも行かれるので、時々そういうことがある。
でも帰宅して冷蔵庫のものをかき集めたら、立派な献立が出来た。このところ、旦那が卵を食べないというので、おかず作りが大変。つくづく卵って重宝な食材だなあ、と思う。
旦那は毎日午後になると微熱を出す。また胆管に炎症が起きているのかしら。
夜になって春一番が到来、ものすごい風が吹き荒れている。
14日 ヴァレンタインデーで、チョコレート売り場はどこも超満員。みんなどうしてそんなに愛を訴えたいのかしら。
ヴアレンタインにチョコレートを買いたいと思ったことがない私は、変?
8時半に病院の番号を取りに行く。今日は4番目。旦那の先生は2人で、一人はどうやら楽天的。もう一人の先生は慎重派だということが最近分かってきた。今日は主治医の楽天的先生が学会でお休みで、慎重派の先生の方だったので、また入院絶食・点滴の道を選ばれることになった。病名はすでに何回か繰り返している逆流性胆管炎。
予定は1週間だけれど、どうなることやら。
一日のうちに3回病院と家を往復して、忘れていたものを運ぶ。時計、ひげそり、下着、スリッパ、新聞……。
2人部屋の今回のお相手は、同年配だけれど、吸引をしているので、けっこう賑やか。
明後日は個室に移りますので、それまでご迷惑をかけます、と付添の奥さまが言われたけれど、却って気を遣わせてしまったようで、こちらが恐縮した。
今回は今までの4階が空き部屋がなく、3階になったけれど、こちらのほうが看護師さんが幾分若い。
皆きびきびと働く姿が眩しく感じられる。
夕方ミノ・ヨーコ夫妻が、ノニジュースを取りに現れたので、帰りたがるのを無理に引きとめて、ご飯を付き合ってもらい、久々にうまみ濃厚な食事をした。予定では今日から1週間、シングルライフ。

15日 朝雨戸を開けたら、目の前の植え込みにちらちらと白い花が見えた。サンダルを履いて出てみたら、去年の春お友達の庭から頂いてきたクリスマスローズだった。躑躅の根もとの日の差さない所に植えたので、ダメかと思っていたのだけれど、こんもりとした蕾が何本か咲くのを待っている。
洗濯ものを干そうと2階のベランダに出たら、桃の花が今にも開きそうな風情を漂わせていた。
旦那の体調に気を取られているうちに、春は確実に忍び寄ってきている。
今日は病院に4回足を運んだ。近くて大助かり。片道450歩だからそれだけで3600歩稼いだことになる。
病人は熱がそう高いわけでもないのに、気持が落ち込んでいるので、そのことがとても気になった。
病院の空気が乾燥していて、私は毎日帰ると咽喉が痛い。
16日 昨夜病院から帰ってきたら、おとといより咽喉が痛い。思いついて痛み止めを飲み、ノニジュースでうがいをしたら朝だいぶ楽になった。
8時半に病室に行き洗濯物を持って帰り、しばらくしたらウオークマンの電池がない、と電話。
10時半にもう一度病院に行く。今度は鋏とセロテープが必要だという。
1時半からのデイホームを済ませてもう一度行く。病室に電話があるのもよし悪しだわ。
お隣のベッドの方が個室に移られたので、部屋が広くなった。でも一人でいると碌なことを考えないので、当分はお相手が必要。
今日の病院通いは3回。床屋に行きそこなって気にしているので、鋏と安全剃刀を持って行って、後ろの裾刈りをしてあげた。
本人に見えないので、上等よ、と言っておいたけれど、髪のカットって難しい。
冷蔵庫の中を探ったら、冷凍した鯵の三枚おろしが出てきたので、久しぶりにフライを作った。
揚げ物なんて2年ぶりぐらいのような気がする。
揚げたてをふうふういいながら食べて、十分満足した。
17日 身を刺すような北風が朝から吹いている。郵便局も病院の外来も、あまり人がいない。
病院は元気な人が行くところなのだ。旦那は今日はなんとなくご機嫌が悪いので、届けものを済ませて、一旦帰る。
だんだん精神的な余裕がなくなっていくのが見えて、それがこわい。
絶食4日目では当然だと思うけれど、私にはどうすることも出来ない。私の咽喉の痛みはどうやら風邪らしく、鼻の奥が乾いた感じで嫌。昨日いつも午前中に行くハルコさんに、文旦をあげるから、午後にしたら?とプールに誘ったので、いちかばちか、と思いながら午後プールに行く。我ながらかなりむちゃな話。
風邪はよくもならず、さりとて特別悪くなったともいえず、結局のところ、行って楽しかった分得をした。
夕方再び病院に行ったら、今日は機嫌が悪い、と自分で言う。なぜかというと、先生の指示で一日300tまで水を飲んでいたのに、先生は水を飲んでいいとは言わなかったとのたもうたとか。これは私もそばにいて聞いていたので、本人が怒るのも無理ない。
たださえ我慢の限界の崖っぷちだったので、ついに先生に怒鳴ってしまったらしい。
私はそのあとのフォローに全力を傾ける羽目になる。
夜8時まで話し相手になって、気持を鎮めさせ、検温にきた看護師さんに、先生に謝っておいて、といったら、もっと怒れ、怒れ、と言ってくれて、私も安心して帰り仕度をし、コンビニで398円のお弁当を買って遅い夕飯となった。
お弁当は美味しくなくて、夜は寒い。
18日 朝8時半に病院に新聞を届けてしばらくお付き合いをする。といってもお相手は新聞を読んでいるので、座っているだけ。10時になって一旦家に帰り、着替えて出かける。
11時半に新宿西口交番の前で「とど」が終結。久々の食事会だ。
京王プラザホテルのバイキングがお目当てだったけれど一週間前の受付だということで取れず、急遽小田急ハルクの「大志満」での食事となった。
「とど」は3月に新宿のプールが閉めてからの久々のミーティングだった。去年5月に河口湖へ1泊旅行した時は、旦那の入院で私はキャンセルしてしまい、考えてみたらそれ以来の病気続きで、あっという間の9か月だった。
35年間の仲良しグループはやっぱり一番懐かしいお仲間で、話が尽きない。
帰ったら病室から4回も電話が入っている。美味しいものを食べた話は、旦那には流石にいえず、荷物を放り出して大急ぎで着替えて病院に行ったら、今夜からお食事が出ることになったという。我慢の限界だったのでほっとした。
5日も絶食していたのに、出された食事はお粥以外は普通の献立だった。大丈夫なのかしら?とちょっと心配になる。
いつものことながら、絶食のあとでまた2キロ減量した。このことのほうが心配。それにひきかえて私と来たら、最近目方が減らない。絶食なんてできないしなあ。
19日 目が覚めたらカーテンの隙間から、近くの8階建マンションの壁に当たる朝日が、きらきらと輝いている。。
今日は木曜日で、ゴミの収集日。慌てて起きる。
朝のうちに新聞を病院に届けて、10時までに家に帰る。今日はミワコさんとマチコさんが、袋作りに見える約束をしている。
炊飯器にスイッチを入れ、リビングのテーブルのスペースを広げているうちに、ミワコさんのご到来だ。
連絡をちゃんとしなかったために、午後になっての顔見せとなったマチコさんは、煎茶一杯だけを飲んで、煙草を5本ほど吸って、5時までに帰らなきゃ、とあたふたと去って行った。彼女が帰ってから、コーヒーを入れてあげればよかった、と思ったけれど、あとのまつり。
ミワコさんは、今日のうちに“大島紬”のバッグを仕上げることができたので、私としても満足。
夕方までゆったりとした時間を過ごして、ミワコさんは庭の花のプランター10個以上に水やりをしてくださり、一緒に駅前の生協まで行き、私が教えてあげた“じゃり豆”を棚から買い占めて行った。
病室にいったら、お隣のベッドに若者が入ってきていた。スポーツでいためた肩を、明日手術するとか。
にこにこと、男らしい笑顔のさわやかな男性で、出来るだけ邪魔しないようにしますのでよろしく、と挨拶に顔をのぞかせた。
あわてて、どうぞお気兼ねなく、お互い様ですから、とこちらからもご挨拶。点滴の棒を頼りにトイレから帰ってきた旦那は、慣れたものですね、と褒められて、なんだか嬉しそうだった。
夜になってノリコが、続いてトールがやってきて、狭い空間に炭酸ガスが溢れた。でも旦那はご機嫌。
今日は私たちの結婚記念日だけれど、私以外誰も気がついていない。非常時の我が家の状況では、仕方ないわ。
20日 目が覚めて耳を澄ますと暁暗のなかで、豆をばらまくような音が響いてきた。雨だ。
一番に思ったことが、昨日ミワコさんが折角花の水やりをしてくださったにのに、ということだった。
この2日ほどせっせと食事をしているので、なんだか体が重い。旦那が昨日、今回の絶食5日でまた体重が2キロ減ったと嘆いていたのに、私と来たら、まったく減る兆候すらない。
まだまだ悩みがない、ということかしら。でもせっせとストレスをためない努力を惜しまず頑張っている自分に、拍手を送りたいような気さえしている。
午前中に足の痛みを抱えて、いちかばちかの賭けで健康体操に行き、そのままジムでウオーキングマシーンとバランスマシーン合わせて8000ステップをやったら、痛みが消滅した。
病室から電話で、先生が、退院したいか、と聞きに見えたという。夕方には2週間ぶんの薬を薬剤師さんが届けてきたというけれど、まだ明日の血液検査がある。どうなってるのかしら。でも帰っていいというなら、一刻も早く家に帰りたい人なのだ。
それにしても、最後の日になって来た看護婦さんは、この上なく嫌みな人だったなあ。挨拶したってまったく無反応。
旦那が話をしているうちに、話半分で出て行って、そのまま帰ってこなかった。
こういうメンタル面での教育ができていない人は、看護婦としての資格もないよな、というのが後から来た息子の感想。
今風に看護師さんというよりは、昔のスタイルの威張った看護婦。腹立ちまぎれに“3B”とニックネームをひそかにつけた。
つまり、“ブス、無愛想、無礼”というわけ。ああ、すっきりした。
21日 電話がかかってこないので、新聞を届けがてら病室を覘き、新しいニュースがないので、整形外科に私の薬をもらいに行って、そのまま九品仏まで地代を払いに行く。銀行に寄って入金をしようと思ったけど、土曜日で手数料がかかると表示が出たので、私のお金を私の口座に入れるのに、なんでお金をはらわなきゃなんないのよ、とアホらしくなって取りやめる。
帰ったら今日も4回電話が入っていた。
5回目の電話で、先生が退院許可を出してくださったということだった。
旦那の主治医はH先生とY先生の二人がついていて、H先生はまだ退院させたくないらしいけれど、Y先生は出来るだけ家に居させたいと思っているらしい。だから2週間前のちょっとした問題の時は、Y先生の判断で1週間のクラビット服用で、切り抜けたのだった。
何かあったらすぐに連絡をいれるという条件付きでの退院となった。
たったの1週間の入院だったけれど、帰ったらなんだか物珍しそうにあたりを見回している。
夜は牡蠣のクリームシチューを作って、たっぷりと栄養を吸収したから、明日は元気になるかも。

22日 今日まで晴天で明日からはまた気温が下がって雨が降るらしい。のんびりとした日曜日。
午前中はただテレビを見ている。でも面白い番組はほとんどない。
ベッドに横になっている夫のそばで、私も転がっていたら、朝の日差しを身いっぱいに浴びて、いつの間にか寝てしまった。気がついたら12時。
朝から2時間も寝てしまうなんて、やっぱり旦那の入院は疲れるのだ。
午後になって美容院に行った。1か月ぶりで少し女を取り戻した感じ。
旦那が帰ってきて、また家の中にモーツアルトが鳴っている。モーツアルト好きな私も流石に他の音楽が聴きたいなと思っている。
今夜は野菜たっぷりの鱈鍋を満喫した。
23日 気になっている入院費を支払いに朝9時半に病院に行ったら、まだ出来ていないという。
おととい入金をしそこなったお金を近くのATMで入れて、デイホームに行き、1時間歌いずくめ。
ホームに入って行ったら、雨やんだかしら?と聞く人が何人か。殆んど止んだわよ、明日はお天気ですって、と言って帰りに外に出たら、じゃんじゃん降っている。この分では明日も雨かも。
帰り道もう一度病院に行ったら、予想していたより請求書の金額が多くて、行きがけにATMに入金したことを後悔したけれど、お財布の底をはたいてどうにか払った。
今回は13万円でおつりが少々。1回で済ますつもりだった買い物が出来ず、一旦家に帰ったら、出るのが面倒になって、庭で見つけた4個の蕗の薹と、まちこさんに頂いたむかご、それに蒸し野菜を刻んでかき揚げにしたら、美味しかった。
雨は止む気配なし。
24日 今日も朝からどんよりして昼にはぼちぼちと落ちてきた。昨日デイホームで明日は晴れなんて、嘘をついてしまったなあ。
ちょっぴり面倒だったけれど、アクアエクササイズを受けに行く。このところ続いている膝の痛みを解消したい一心で。
今日は誰も顔見知りがいない。ひとりでのんび〜りとお風呂に浸かるのも悪くないわ。
出がけにマキちゃんからのメールで、徳島のお土産を渡すというので、旦那のご注文のカステラを買うついでに、自由が丘の改札を出ず、そのまま二子玉川まで行って、高島屋で待ち合わせ。久しぶりにかわいい姪とのティータイムを過ごす。
この子は(と言っても大学生と高校生の息子を持つおばはん)私のDNAを強く持っているような気がしてならない。
どっかおっちょこちょい気質なのだ。話が弾んで、外に出たら夕暮れが忍び寄る気配がして、流石にちょっぴり焦った。
多めの水を加えて大急ぎで、柔らかいきんぴらごぼうを作ってご飯に間に合った。
今夜はしんしんと冷える。プールに行った日はお風呂にははいらないのだけれど、このままでは寝られない。とっぷりと湯船に沈んで、体の芯まで温める。
25日 今までにない膝の痛みが、間欠的に襲ってくる。朝からびっこひゃっこといった感じで、我ながら冴えないなあ。
この分では夕方まで新聞受けをのぞきに行くのも面倒なので、冷蔵庫に首をつっこんで、あれこれ考えるけれど、どう考えても足りない食材がある。意を決して買い物に出ようとしたら、雨が激しくなってきた。結局今日は一歩も外に出ない。
旦那は去年のカレンダーの裏についていた、超高度な折り紙の動物つくりに専念していたかと思うと、確定申告の書き込みをやったり、その二つのことしかやらない。私はせっせとミシンをかける。
今日1日で袋が2個出来たけれど、最近買ったこのミシンの使いにくいこと。もうかれこれ10年前に捨てたシンガーの卓上ミシン、あれはよかったなあ。今になって捨てたことを後悔している。針を取り換えるのに30分!縫い始めたら上糸が絡まってしまい、またまた針が折れてそれがミシンの中に落ちてしまう。肩がこちこちに凝ってしまった。
時計を見たら6時で、あわててお魚を焼いて高野豆腐の卵とじを作ってごはん(書いてみて気がついた、高野豆腐ばっかり食べている)。明日の朝食は、食パンが2枚あるだけ。
牛乳もサラダもない。さてさて、どうしようかしら。
26日 今日もどんよりとした空は、まったく希望を感じさせないで、とにかく寒い。昨日の夜体重計に乗ったら、1キロ増えてしまっていた。
やっぱり“食っちゃ寝”はよくないなあ。でもその割に体脂肪は25を保っているので、食べたものが皆筋肉になったと思うことにした。
今朝になって足の痛みが軽減、旦那は腰が痛いというけれど、私がびっこを引いていても、気がつかない。
だから自助努力で治すしかないのだ。朝新聞のチラシを見ていたら、今日は野菜が安い。そこで嫌にならないうちにガラガラとショッピングカーを引っ張って午前中に買い物に出た。
ところが行きは良かったけれど帰りの坂道でまた足が痛くなり、いささか体力に自信喪失。
考えたら今日はまったく何もしない日になった。
夕方6時に、ご飯を並べているところにヨーコオバチャンからの電話。今美容院の帰りで坂の下にいるという。
ちょうど果物を届けようと思っていたところだったので、5分待ってて!と叫んで、足の痛みも忘れて坂の下まで飛んで行った。
今朝親友のスミコから届いたでこぽんと、一昨日これもお友達のアツコさんから送られた文旦を担いでお裾わけ。
彼女と私は同じ美容院に行っていて、2、3日前に旦那が退院したと美容院で話したことを聞いて、電話をくれたのだった。
夜になって飲んだ痛み止めが効いて、やっと足の痛みが治まった。今日は2度のお風呂で、読みかけの本を50ページ読み終わった。
27日 ついこの間2月だなあ、と思ったのに、気がついたらもうあと1日で3月の到来だ。
今月も旦那の入院であわただしく、ひょっとして私の背中の肩甲骨のあたりには、天使のような羽が生えていて時間空間を飛んでいるのではないかと思ってしまう。
今日一日は最近の思考ゼロなマンネリ生活を一気に解消するような、なんとも馬鹿げた一日だった。
脚の痛みが軽減したので、体操に行こう、と思い立ったのが8時半。
慶応のキャンパスの地下にあるスポーツクラブに行くエレベーターが、私が行くまで待っててくれたので、思わず数歩走る。
途端に“ぎくっ”と膝に痛みが走った。とにかくフロントを通り抜けたものの、体操をやれる自信は完全に消滅した。
びっコを引きながらスタジオに行って、コーチに話をする。今日はストレッチだから軽くやったら?といわれてその気になったけれど、まったく使い物にならない。こういう時は冷やすべし、というのを思い出して、朝一番でがらがらの、お風呂もミストサウナも、暖まらずにひたすら水をかける。
帰ってから、午後の診療時間の始まるのを待って、プラセンタの注射を受けに行ったけれど治らない。
夜になって旦那が隣の娘の家に行ったと思ったら、電話をかけてきて、玄関先で転んで眼鏡を壊した、という。
慌ててビッコを引きながら隣に行くと、目の上に絆創膏を貼っている。
“ナンタルチーア!ったくもう!”
娘の“まったく年寄り夫婦がねえ”という嘆きの声に送られて、家に入って、思わずふう〜とため息が出た。
28日 退院後一週間の外来の日だけれど、私自身が歩くのもおぼつかない。頼りの息子は仕事が忙しいらしく、このところ姿を見かけない。そこで、夕べのうちに娘の旦那のタケトシ君に根回しをしておいた。
仕事に出る行きがけに送ってもらう約束を取り付ける。ここで少々反省!これからは出来るだけ人を頼らないようにしなければ。たとえ歩いて3分の距離でも、タクシーが拾えない土地ではない。いつまで続くかわからない状況だけれど、あまり物事を重く考えるのはよそう。病院の先生は、今回数値が悪くないのでご機嫌だ。先生との対話
「体を動かしてください」、
「それが、昨日転んだんですよ」
「それでしょう?」と、眉毛の中の傷を見られた。
「そうなんですよ、買ったばかりのメガネ壊しちゃって、そのほうがダメージが大きかったわ」
「は、は、は……」
切った張ったが日常茶飯事の外科医にとっては、2センチの切り傷なんて、どうってことないんだ。
旦那は隣でにやにやしている。帰りは先生のアドバイスもあって、ゆっくりと買い物をしながら歩いて帰った。
今日おろした私のコートは、昨日“アウラ”に遊びに行って、売れ残りを安くゲットしたもの。
カクマツさんたら、「もってけ、どろぼー」だって。
ミルクコーヒー色のニットで、襟の形と膝上丈が気に入っているけれど、半袖でちょっぴり寒かった。
娘に見せたら、「うん、かわいいじゃん」私おおいに満足。

